【オススメ】 ヤマシタトモコ/花井沢町公民館便り

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花井沢町公民館便り(1)

■【オススメ】隔離された世界を描く、ある種のSF。

リヤカーをひく女性。そこに男性から声がかかり、彼女は牽引フックをもらってひっかける。 すると喪服の男たちが遠くからリヤカーを引っ張りはじめた。中には遺体。そして女性は、 私がたぶん最後だと思う、と言い、男たちも、そのように把握している、と答える。 そして夜。彼女に何かを渡しにくる男性が。彼女は彼に言う。 もう髪を切ってくれる人もいない。わたし一人。一度でも、きみとキスしたり抱き合ったりしてみたかった、と。


シェルターや刑務所に使われる予定だった開発中の技術である、 生命反応のある有機体を通さない見えない膜のようなものが、事故により機能が発動してしまった街の話。つまり、その小さな町の人は、外へ出られない。外の人も、中へ入れない。閉じた世界を舞台にしたSFである。


原発事故といった話を表裏逆にした設定はアイディアである。閉じた中の世界の人は、外にでることはできない。ただし、物であれば出入りは出来る。そこでの話を、何十年というスパンで描く。一話目が冒頭のような最期に近い話なので、時間軸に沿って綴るスタイルではない−それが読み手を混乱させる部分がある。これをやるには、登場人物や背景となる家屋を明瞭に描き分ける描写力が必要なので、著者の絵柄では少々荷が重い。


そこに我慢して読みこめば、かなり面白い作品である。面白いといっても笑えるわけではない、 寧ろシビアでシリアスである。なにせこんな状態の町でも、トラブルは発生する。 中も外も、良い人ばかりではないのは、この世の常である。


この内容を読者が飲み込みやすくするには、こうした時間軸を自在に行き来しながら 綴るスタイルが適当で妥当なのだと思う。しかしそれはテクニカルな部分が強調されるので、 マンガでやるのはしんどいだろうなぁ。 そのチャレンジ精神、ガッツは賞賛しますが。このタイトルと表紙でそういう内容とは 正直思わなかったです。


【データ】
ヤマシタトモコ
花井沢町公民館便り
【発行元/発売元】講談社 【レーベル】アフタヌーンKC 【発行日】2015(平成27)年3月1日発行 ※電子版で購入
■評価→ B(佳作) ■続刊購入する?→★★★★★
■購入:
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2055年。わたしたちの町・花井沢町は、あるシェルター技術の開発事故に巻き込まれ、外界から隔離されてしまいました。どこにも行けず、誰もやってこない。遠くない未来、いずれ滅びることが約束された町で、わたしたちは今日も普通に生きています。『BUTTER!!!』『HER』『ドントクライ、ガール』など多彩な作風で知られるヤマシタトモコの最新作!

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ヤマシタトモコ/BUTTER!!!


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