さよならソルシエ 1 (フラワーコミックス)
■【オススメ】正直なところ題材にがっかりしているのだが、 それでも内容は面白い。
実在の人物に材をとった作品が悪いとは言わない。しかし、実在の人物を登場させれば、否応なしに史実の束縛を受ける。なのでフィクションは出来る限りフィクションとして作り上げたほうが良く、実在のものを混ぜずに済むならそれに越したことはない、と思っている。なので、この作品は正直、残念である。デビュー作の評判がよく、腕があり、実際本作も面白いとなれば、ますますその思いは強まる。
19世紀終盤のパリが舞台、主人公は画商である。有名な商会の支店長を勤める人物、勤務態度は問題があるが売り上げは確実に上げる。そんな彼は、立場上、画家には体制派、保守派と見られ、アカデミー側からは跳ねっ返りと見られる。実際、彼は、体制の内側から、革命を起こそうとしているのだった。
そんな人物として描かれるのは、テオ、テオドロス・ファン・ゴッホである。画家フィンセントの弟で、家族で唯一、兄を支えた人物。グーピル商会は、おじが立ち上げメンバーの一人でもあり、その関係で兄弟ともに勤め、兄が辞めた(辞めさせられた)ことで弟である彼に地位が回ってきた。それを利用し、絵を売り、兄を支援した。そして兄の死後、元々病弱でもあった彼は衰弱し、後を追うように亡くなっている。
という具合に、生涯が知られている人物を、そのままに描こうとするのは、ある種興ざめである。史実としてある部分は本来守るべきである。史実にない部分に創造性を働かせることは可能であり、それが作品の鍵になるが、とはいえそれは穴埋めの芸術でしかない。
とはいえ、どういうわけか、世の人々は実話ものが好きである。based on a true storyという、basedなだけで嘘っぱちに作られた話でも、これ事実なんだって!と読み替えて感心する、それが世の主流である。それは、本作で批判される、アカデミーの連中がありがたがるフォーマット信仰と、さして変わらない。
作品は面白いし別にこれはこれで良いのだが、しかし、前作が惚れ惚れする内容だった著者が初の長編作品で、内容に期待したところ設定はオリジナルでないという点で興味が半減したのは事実である。オリジナル至上主義というよりも、モデルのいる作品はモデルに縛られるために人物が自由に動けないという点で、フィクションとしての自由度が低いため、なぜフィクションとして創作するのかが正直意味が分からない。
習作として考えれば設定がきちんと出来上がっている話で物語を展開していくというのは手堅いし、当人が描きたい作品でもあるのだろうが、読みたかったのは、コレではない。しかし出来は良い。良いのでオススメとせざるを得ない。
※追記:完結した2巻を読んだ。こういう捻りをするのであれば、納得。ただし歴史上の人物を題材にすれば、フィクションを理解できないものから無粋なツッコミを受ける。それでもやりたかった題材なのかどうか。しかし、歴史上の人物史実をフィクションで取り上げる意味は、本作のような形しかないだろう。
【データ】
穂積
(ほづみ)
さよならソルシエ
【初出情報】flowers 2012年10月号〜2013年2月号、4月号
【発行元/発売元】小学館
【レーベル】flowersフラワーコミックスα
【発行日】2013(平成25)年5月15日初版第1刷発行
【定価】429円+税
【掲載情報・次巻予告】2巻 2013年冬発売
■評価→
B(佳作)
■続刊購入する?→★★★★
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【公式サイト】
画家と画商…ふたりの“ゴッホ”の伝記浪漫 19世紀末、パリ。のちの天才画家ゴッホを兄に持つ、天才画商テオドルスの、知られざる奇跡の軌跡。生前、1枚しか売れなかったゴッホが、なぜ現代では炎の画家として世界的に有名になったのか…。その陰には実の弟・テオの奇抜な策略と野望があった! 兄弟の絆、確執、そして宿命の伝記!小学館:コミック 『さよならソルシエ 1』
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