1.
岡村星/誘爆発作
:
SF風味あるサスペンスミステリ。小説では良くある話ではあるかもしれない。誘拐あるいは殺人といった事件に絡み、テレパシーを利用し事件を解決しようとする。しかしそれが直線的ではないところが現実的。能力を解決には直接使えず、迂回して遠回りしているのがユニークで、こうした設定でサスペンスを煽るのは非常に正しい。物語は直線的に語られても勢いはあるかもしれないが実はさほど面白いと感じない場合が多い。ただ単に言いたいことだけに突き進むようなものは話づくりとして違うのだろうな、と思わせる一作である。
2.
雲田はるこ/昭和元禄落語心中
:
落語ものだが、噺自体あるいは芸事修行ものが多いなか、両者を含みつつ、違う物語の軸も用意して重層的に語る話はユニークで意欲的。雰囲気あり、読み進めるうちにその世界に没入していく、そんな魅力のある話くちである。シリアスな「タイガー&ドラゴン」というところか。
3.
影山理一/奇異太郎少年の妖怪絵日記
:
内容が面白く絵本や絵物語の雰囲気であることもあり、昨今珍しい左開きというのも特徴的だが、ケータイ掲載の作品をどうやって書籍化するか、紙媒体でどう見せるか、にこだわった作りが嬉しい。単行本は連載をそのまま切り出せば良いというものではない。こういう努力をしている作品はそれだけでも評価したいが、本作は内容も良いので特にオススメ。
4.
逢坂みえこ/プロチチ
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専業主夫ものに、アスペルガーという難しい題材をかけ合わせた意欲作。仕掛けの妙にとどまらず、回を追うごと深くなっていく内容はお見事。難しい顔をして読むような内容とならず、基本コメディだが笑ったあとに残るものがある。
5.
小路啓之/ごっこ
:
擬似家族もの、というと最近良く見るが、そんな中こちらは滅多にないブラックな内容。ロリコンが幼女さらってきて、そういう目的だったのだがパパと呼ばれたことで前提が崩れていく、という、随分思い切った設定の話である。ここまで逆さに見て作った話がツマラナイはずがなく、なかなか奇妙な作品に仕上がっている。
6.
瀬川藤子/VIVO!
:
金八先生のような教師ばかりじゃ息が詰まる、というのがマンガ読者では主流の考え方なのではないかと思う。共感を持って読む人が多そうな、教師らしくない教師の話。しかし、そこがいいという生徒もいる。とはいえカリスマ化や神格化されるような教師ではない。そこが良い。 これは、学校通っているような子に読んでほしいなぁ。気が楽になる人もいるだろうから。
7.
今井大輔/ヒル
:
他人の家を痕跡残さず転々としていく「ヒル」の話。主人公がその自覚なく、しかし同類は多くいて、その同類から見ればルール違反な主人公は目を付けられる、という展開はある種不条理ゲームものに似ているのだが、しかし主人公は自らの意思でそのゲームの世界に身を投じているところが巻き込まれ型の話と違う。そうした設定に踏み込んだところを賞賛したい。
8.
松田洋子/ママゴト
:
擬似家族ものは多いが、ファンタジーに流れがちであるなか、この作品は現実から足が離れることなく、つまり痛みを伴う話になっているところが凄い。ヒロインはそうはいっても今の時点では成功者といってもよい状態にある、という点で、痛すぎる話にはなっていないが、そもそも擬似でも家族を持つというのはある程度の生活基盤が必要なのだという話でもあり、それは厳しい現実を示してもいる。
9.
ラズウェル細木/う
:
思い切った作品。エッセイ含む食まわりのマンガを描く著者が今回チャレンジしたのは、「うなぎ」一辺倒の作品である。主人公はうなぎ好き、三食うなぎで構わない、という人物がいろんなうなぎの食べ方を試す。それで一巻作品が持つのか?と思うと、これが持つのだ。しかもワンパターンに陥らず。狭いところを掘っていくことで新しいものが生み出せるという一例である。
10.
森恒二/デストロイアンドレボリューション
:
超能力話。そしてそれを、壊すことに用いようという話である。革命というテーマは、今の日本にはふさわしい。内容がとにかく壊すというものではなく、段取りを踏んでいる。単にアジテートするだけの中身でない。
一巻完結本では
1.
西炯子/兄さんと僕
:
落語の世界を描くが、その描いた話自体が落語噺のような洒脱さ、軽妙さ。著者のセンスがうまく発揮された一冊ではないか。
2.
えすとえむ/うどんの女
:
うどんが取り持つ男女の話。その話も良いが、ここまでうどんをセクシャルに描いた作品はないのではなかろうか。
3.
松本藍/生きろ!モリタ
:
援交すれすれ、出会い系から始まる物語はSM介した関係で、しかも彼女には彼氏はおり、とはいえ処女で、という、理想をぶち込んだ闇鍋のような設定を、うまく取り回し、理想的な落としかたまで持っていった。
4.
村上かつら/新人保育者物語 さくら
:
普通の漫画とは違うルートから生まれた作品。専門職むけの雑誌への掲載なのだが、普通にマンガとして読んでも完成している。著者の腕を改めて感じる一作。
5.
小坂俊史/遠野モノがたり
:
舞台設定がユニークなご当地もの4コマ。著者自身の体験をベースにしているが、あくまでもエッセイマンガではなくフィクションとして構成しているところが、エッセイマンガだらけの昨今では逆に良い。
6.
宇仁田ゆみ/ノミノ
:
幸せというのは、目の前にあって、余計なことを考えずにそれを掴み、守ることを考えればいいのだな、というのは、誰しも人生振り返ってみると思うことだが、そうしたことを描いた作品。なんで、という疑問とか、これでいいのか、という自問とか、それを超えて、なにかあってもなんとかするんだ、なんとかすればいい、と覚悟する話に、確かにそうだよなぁと思う次第。
7.
逢坂みえこ/木村くんは男友だち
:
残酷な話ではあるのだ。既婚者のヒロインにとっては男ともだち。しかし彼にとっては彼女は忘れられない女なのである。そしてそのことを彼女は別に意識してもいない。
そんなコメディ。確かにそれは、コメディ、喜劇だ。
本当の意味でのコメディ、というのを久しぶりに読んだ気がする。
8.
谷口ジロー/ふらり。
:
作品単独でも雰囲気はある。誰のことを描いているのか、が分かると、なるほどと思うのだが、そこには作中では敢えて触れていない。いや、誰のことかは見当のつくヒントはあるが、誰、というのをフィーチャーすることには意味がないということなのか。ここから他の書物などに広げて読み進めていくと良いのだろう。
9.
谷川史子/吐息と稲妻
:
表題作は反則まがい。とはいえ味があるのは確か。著者好きよりも著者作品読んだことない人にこそオススメか。
10.
カツピロ/身内に○ヤがおりましてん。
:
題名どおりのエッセイもの。適度に遠い身内なので、ほどよい距離感で描かれていて面白い。怖いもの、という扱いでもなく、興味本位、という感じでもない。温かみを持って描かれているのは、まぁアバレル業界にそういう態度はダメだって言い出すお固い人もいそうだけれど、偏見持たずに読むと楽しめるはず。
がオススメ。
【参考】
→
マンガ一巻読破 | 2010年のベストセレクション
→
マンガ一巻読破 | 2009年のベストセレクション
→
マンガ一巻読破 | 2008年のベストセレクション
→
マンガ一巻読破 | 2007年のベストセレクション
→
マンガ一巻読破 | 2006年のベストセレクション