筒井哲也/有害都市


有害都市 上 (ヤングジャンプコミックス)

■試みも背景もわかるのだがストレートすぎる話の方向性は 個人的には好みではない。

人間を喰らうようになってしまう狂犬病のような病を 描く話−を描く漫画家の話である。ただし舞台は近未来、 世間では表現の制限について先鋭的になっていた。 改正児童ポルノ法に違反するわいせつ陳列罪だとして、 放尿児童像としてしょんべん小僧のブロンズ像を 撤去する始末。そんな中、彼の新連載作品は、 開始早々に回収を命じられてしまう。


長崎県の青少年保護育成条例に基づく有害図書指定を受けた 経験のある著者が、公権力が表現規制を強行に推し進める ディストピア化した社会を描く。 しかしまぁその表現が直接的ではないかと個人的には訝しむ。 そこにアメリカのコミックス倫理規定を持ち出し、 アメコミの進化が止まったかのごとき話も投入。 これが事実ではないと炎上した。


そんな作品であるが、第20回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した。 有害図書指定を受けた著者がその経験を元にさらなる公権力の規制を描いた作品に 官公庁が賞を授ける、という図は文化庁の懐の広さを示したようにも見えるが、 時の政権や与党の立法への批判という文脈も考えられなくもない。 まぁ穿ち過ぎか。


作品としては、あまりにも正面から話しをぶちかましている ことと、文字が多いことに閉口した。 法案が出来るとその運用が暴走していく、というのは確かにありうることだが、 それは法案の問題ではなく、運用する側の問題である。 なので、その法案を使って何か別のことを実現したい人間、法人、団体に こそ問題がある。そのときに、宗教や信仰のある人が絡むと最悪な事態を もたらす。なぜなら彼らは信じる正義を実現するために力を行使しており、 その行動は宗教や信仰ゆえであるので彼ら自身の頭では一切考えることを していない、なので罪悪感も生まれないからである。 何かを信じることは、個人にとってはすがるものが出来て良いことではあるかも しれないが、それを他人に行使するとなると途端に大きな問題を生じがちである。


本ブログは一巻レビューなので本来は上巻だけで判断すべきで、 その上巻ではまだ下巻への期待感もあったのだが、 下巻を読むとその期待は失望に変わる。 漫画家が公権力に対して無力である、というのはありうるにしても、 出版社がこれほど能無しであれば存在する価値はない。 世論もおとなしすぎるだろう。それはともかくとしても、 公権力側の意識が良くわからない。なぜそこまで横暴なことが出来るのか、 その背景は約一名、息子の存在を仄めかされる人物以外は描かれない。 そして真正面からぶつかった結果がこの結末なら、上下巻などもったいぶらずに 一巻完結で描き上げて欲しかった。


【データ】
筒井哲也
有害都市
【発行元/発売元】集英社 (2015/5/19) 【レーベル】ヤングジャンプコミックス 【発行日】2015年発行 ※電子版で購入
■評価→ C(標準) ■続刊購入する?→★★★★ まぁ購入したので・・・
■購入:
amazon→ 有害都市 上 (ヤングジャンプコミックス)
2020年、東京の街ではオリンピックを目前に控え、“浄化作戦”と称した異常な排斥運動が行われ、猥褻なもの、いかがわしいものを排除するべきだという風潮に傾き始めていた。そんな状況下で、漫画家・日比野幹雄はホラー作品「DARK・WALKER」を発表しようとしていた。表現規制の壁に阻まれながらも連載を獲得するが、作品の行方は──!? “表現の自由”を巡る業界震撼の衝撃作!!


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