佐倉色/とある新人漫画家に、本当に起こったコワイ話


とある新人漫画家に、本当に起こったコワイ話

■漫画家が自分の声をあげる機会があるのは良いことではある。 とは思うのだが。やはり出版すべきではなかったような・・・。

著者が ウェブで描いた漫画が話題になり編集者から仕事の依頼が 来る。漫画以外に仕事もあり忙しいので と断るが、「一年、二年先を見据えてでも お話しさせてください」と言ってきた人がいた。 それは大手出版社の編集者。話を聞くだけ聞いてみようかな、 「・・・と思った当時の私を本気でどつきまわしたい」 そんな出来事がその後に待っているのだった。


著者の経験を綴る実話エッセイもの。 個人的には、ノンフィクションものはフィクションに劣る、 と考えている。実名を出したりモデルが特定できるようなものは 読み物としてはあまりよろしくない。作りものの世界で 実名も出さずに何かを感じさせることこそが作り手側の 仕事だと思っている。なので、特に誰かを 批判非難する内容であると、それは、わざわざ描き出版する ものなのか?と訝しむ。


とはいえ著者は訴えたいことだったのだろう。 漫画家さんに声を上げる機会が与えられるということは 素晴らしい。とはいえ、今はWEBがある時代なので 本の形式でリリースすることにどれほど意味があるのかはわからない。 唯一意味があるとすれば、出版社と編集者が存在し、 著者を守る盾となり作品の校正が出来るということだろうか。 さて、本作で、そうした利点が働いているのだろうか。 働いている場合、実名で、実際に起こった事件を、 描かせようとするだろうか。この作品で批判されている 出版社と編集者の在り方と、本作の出版社編集者の役割は、 本当に違っているのか。いや、著者との関わり合いでは決定的に 違うのだろうが。しかしそれは、読者含む一般の消費者には 実はどうでもよいことではある。


描かれていることは著者にとっての事実、真実なのだろう。 しかしそれが描かれている相手にとっても事実、真実であるのかどうか。 互いに真実がありそれが食い違うのであれば、 裁判になってもおかしくない。そうしたリスクもあることを、 編集者はなぜ描かせようとするのだろう。勿論、著者は自分にとって 本当のことを訴えたい気持ちもあるだろう、事件を知る人は その真相を知りたいとも思うだろう。しかし、どのみち、 誰が何を書こうと、真実事実などは明らかになりはしない。 意見が食い違えば、何が事実なのかは、もう誰にも判断ができない。 だから、本気の人はとことん嘘をつき、ついているうちに それが本当のことであると思い込んでいく。いや、著者がそうだと言っている わけではない。が、ノンフィクションが描くのは、そうした ヤバい領域にある事柄である。それを認識していない、しようとしない、 したくない人は、ノンフィクションに関わってはいけない。 読んで鵜呑みにするような人はそもそも近寄ってはいけないのである。


とはいえ内容は、文字多めではあるが、たしかに面白かった。 著者は描ける人である。一方で色々なことをあからさまにしており、 家庭環境や精神状態まで描かれているのは、これも描写のしすぎだろう、 と編集者の考慮のなさに暗澹たる気持ちになる。そうした芸風の 作家さんもいるにはいるが、著者の場合はそうではないだろう。 著者の力量を考えればそんな芸風をとる必要もない。 まぁリハビリテーションだと思えばよいのかもしれないが、 ちょっとリスクを取りすぎている。


ちなみに、私の乏しい経験でも出版マスコミ系は、自分のしごとが 完了するまでは細かいが、その後のフォローはほんとに適当、 ということが多かった。掲載の連絡とか掲載誌の送付とか 原稿料の支払いとか後始末のケアがいいかげんすぎる・・・。 なのでそうでない方に当たった時はそれだけで高評価になるという効果も。 まぁ著者の経験はそれどころではないわけだが。 本当は、著者は頑張りすぎずに早い時点でNOと突っぱねる べきだったのだろう。まぁそれは外野で俯瞰して見ているからこそ言えることで、 著者本人もそうした後悔をしているようだが、いろいろ自分で 解決してしまおう、飲み込んでしまおう、と思ってしまうから、 抱え込みすぎて辛いことになってしまったように見える。 登場人物にも問題があったのだろう。 直接関係ないが 成人漫画まねたわいせつ事件発生 警察が作者に「配慮」求める? 報道に作者がコメント - ITmedia NEWS に出てくる登場人物は、作者も警察も冷静で、記事末尾にある 小野田きみ議員のフェイスブック記事 も取材途中の内容ではあるが非常に丁寧な報告だった。本件で迂闊だったのは あわよくば火をつけようと報道したマスコミ、といういつもの話になるのだが、フォローアップしたこのITmediaの記事は 一歩引いた視点でよろしかったと思う。ここに出てくるような方々が本作の登場人物であったなら、こんな作品は生まれなかったのかもしれない。


なお本作では、出版社や編集者はあれでも本は買って、買ってくれないと 作家さんが困る、という論調になっている。それは事実であるし著者が良い人だからこそ そういう話になるのだろう。ただ、本作のような話を書くのであれば、そこは、 作家さんは困るけれど問題のある編集者が関わる本や出版社の本は買わないで、 とすべきだろう。漫画家さんには他の出版社という選択肢がある。問題のある 出版社に対しては不買運動をするくらいなことが起こらないと、 著者が受けたようなトラブルは根本的にいつまでもなくならない。 とはいえ、そういう運動を煽る人もそれはそれで胡散臭いと思ってしまうので、 著者がそういう方ではないという点でも同情するのだが・・・。 もうこの件はこれで棚に上げて、一緒に仕事のできる信頼できる相手と 新たな作品を作り上げて欲しいと思います。


【データ】
佐倉色 (さくらしき)
とある新人漫画家に、本当に起こったコワイ話
【発行元/発売元】飛鳥新社 (2017/6/9) 【発行日】2017(平成29)年6月7日発行 ※電子版で購入
■評価→ C(標準)
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2016年、ネットを大炎上させた、某巨大出版社とのバトル 一部始終を実名をあげてすべてお見せします!
デビュー作にしてとんでもない担当にぶち当たった漫画家。我慢に我慢を重ねたけれど、 「1600枚、ギャラなしで読者プレゼント色紙作成をお願いします。」と言われ、我慢は限界に・・・・・・。
データ紛失、ネタバレ、ネットでの中傷・・・・・ 新人作家を襲った信じられない出来事を業界を干される覚悟で描きます。


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